> スポンサー広告

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • --.--.-- --:-- 
  • コメント(-) |
  • トラックバック(-) |
  • URL |

> story

嘘の言えない男 


僕がちょっと変だと気がついたのは、小学生の頃だったか。
次の日が遠足というときに、天気予報は雨だった。
降水確率70%、朝から降るでしょう、というお天気お姉さんを睨みながら
台所に立っている母親に
「明日は晴れだって」 と嘘をついた。
働きに出てる母親は 雨だって言ったら、お弁当の用意してくれなさそうだったから。
忙しそうに晩御飯のしたくをしながら、母親は
「じゃ一緒に弁当のおかずも作ってしまおうね」 と言って仕込み始めた。
嘘をついた僕はもうその後、何も言えなかった。心がチクチク痛んだ。
そして、70%の確率だったのに、次の日は なぜか 晴れた。

お気に入りの先生が異動してしまう、という話を聞いて
泣き出してしまった隣の席の女の子。
まわりの友達がどんなにやさしく言葉を尽くしても、彼女の悲しみは消えなかった。 
思わず、僕は
「大丈夫。先生は異動なんかしない。君が卒業するまで、この学校にいるよ」
そう言ってしまった。 彼女は泣き止んで、僕の顔をじっと見つめた。
「本当ね?」
う、うん、とうなずいてしまった僕。心がドキドキ痛んだ。
異動発表の日には、学校を休もうかとも思った。
なのに、 なぜか その先生の異動はなかった。

僕が言ったことは、どうやら現実のものになるらしい。
僕は言葉に気をつけるようになっていった。
滅多なことは言えなくなった。
友人たちは、僕のことを、「寡黙な男」「嘘を言わない奴」と言って
信頼してくれているようだけど、本当のところは・・・
嘘を言いたくても、言えないのだ。
「ホントのことしか言わないのね」、好きになった女の子はそう言って
僕から離れてしまう。
現実以上のことを言ってほしいと望む女性は苦手になってしまった。


結婚披露宴は滞りなく進んでいく。
それなのに、僕の胸は不安でバクついている。
「スピーチ、頼むよ」
そう言われたのは、数日前だった。
あまりの驚きで固まってしまった僕に、新郎は何度も頭を下げて
周囲の友人たちも、「大丈夫、大丈夫」と励ましてはくれたのだが・・
みんな、僕のことを、わかっていない。

「それでは、新郎のご友人の・・・さま、お願いいたします」
きた。
壇上で、彼がちょっと心配そうな笑顔を向けてくれている。
もう、ままよ。
僕はマイクの前に立つ。
会場では、次々運ばれてくる料理を食べるのに皆夢中だ。
よし、・・今なら、ばれないかもしれない。
さっさと終わらせてしまおう。

「僕と新郎・・さんとは、小学校からの友達で、よく二人でカエルを取ったりして遊んでいました」
途端、新婦の両親の料理の皿から、カエルが飛び出すのが見えた。 やばっ
「ふ、ふたりでプロレスの技のかけあいをしたり・・」
新郎の両親が突然立ち上がり、コブラツイストをかけ始める。 まずいっ
ざわざわ、、と会場がどよめき始める。
カエルが飛び跳ねているのだろう、きゃっ、とあちこちから悲鳴が響く。
新郎の親戚が座っていたテーブルの周りでは、プロレス技をかける者が増えだした。
そ、そんな、、振袖のお姉さんが吊り天井を・・・。 いかんっ
「え、ええ・・と、とにかく、おふたりの幸せをお祈りして・・」
もう、なにがなんだかわからない。
ポカンと大きなクチを開けている新郎の顔をまともに見ることができず、僕はあわてて言った。
「あ、雨降って地固まるといいますし・・」
その途端、会場の天井のスプリンクラーがすべて開き、滝のように水が噴き出した。

びしょ濡れになりながら、僕は必ずこれだけは言おう、と思っていた言葉をクチにした。
「おふたりの愛はずっと続きます。おめでとう」
早口だったけれど、届いたに違いない。
会場は悲鳴と逃げ惑う人とで、大混乱になった。
新郎は新婦をかばいながら、僕にすまない、と会釈して走っていった。
悪いのは僕のほうだよ。ごめんな。
でも、君たちの結婚生活は うまくいくよ。

僕が言うことはすべて現実のものになる。
だから、きっと、お幸せに。



何回目かの結婚記念日。
窓の向こうに、君たちが見える。
不思議に、話していることも聞こえてくる。

「ほらほら、見て、この写真」
「うん、このときはすごかったよな」
「私の親戚の甥っ子よね、カエルなんかこっそり持ち込んで」
「そうそう。途中で逃げ出して、大変だった」
「それから、ホラ、お父さんとお母さん」
「いきなり、コブラツイストだろ?」
「うんうん」
「オヤジが酔っ払って、何かバカなことをしそうだったんで、止めただけだって言うけど」
「お母さん、きっちり技を決めてたわよね~」
「それを見て、俺もオレもって、従兄弟どもも、悪ノリするからさぁ」
「みんな、けっこうお酒入ってたのよね」
「それからなんと言っても・・・」
「スプリンクラーの雨よね!」
「うん。見事に故障してくれたね」
「みんな、ビショ濡れで」
「でもさ、会場の落ち度ってことで、披露宴代がタダになったし」
「系列ホテルも無料でスイートに泊まれたし」
「今になれば、忘れられない披露宴だよなぁ」
「ホントに、雨降って地固まる、よね」

ふたりは寄り添って、窓を開けた。
「あのとき、アイツが言ったこと、覚えてるかい?」
「うん。おふたりの愛はずっと続きますって」
「うん、、、アイツは、ホントのことしか言わない奴だった」
「あの人があんなことになるなんて」
「うん」
「でも」
「・・・アイツは、星になったんだよ。そして、いつまでも見守ってくれている」
「そうね。私も、いつもそんな感じがしてならないの」


僕はあの日、大金を払えば宇宙旅行ができるというニュースを聞いて
思わず言ってしまったんだ。
「僕も、必ずいつか宇宙を旅するぞ」
そして、その後すぐに事故に遭った。

僕の言うことは現実のものになる。
それが僕の宿命なんだろうか。
だけど今はもう、言葉を怖れない。
僕は君たちの幸せを祈っているよ。
この空から。 ずっと、ずっと。

comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。