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赤い糸が見える男 


「嫉妬」というのは、しばしば私が書く文章のテーマになっている。
出口をふさがれたこの感情は、いつも内側で膨張して
自分でも手余ししてしまう、厄介なシロモノだ。
これは、学生の頃に作った脚本を、今一度手直ししてみたもの。





薄暗い店内。
その日約束をすっぽかされて女はひとりで飲んでいる。
カウンターには、もうひとり男が貼り付いて飲み続けている。
煙草に火を点けようとして、ライターを忘れたのに気がつく女。
目と目が合って、男がゆっくりと自分のライターで女の煙草に火を点ける。

女 「ありがとう」
男 「いえいえ」
女 「ライター、どこかに置き忘れてきたみたい」
男 「彼氏と、喧嘩でも?」
女 「・・・まあ、そんなところかな」
男 「でしょうね。随分と細くなってますよ」
女 「え?」 (自分の身体のあちこちを見回す)
男 「(微笑みながら) ここですよ」

男が指差したのは、女の小指。

男 「ここにね、糸がついているんです。」
女 「・・・・・・・」
男 「赤い糸ですよ」
女 「細くなってるっていうの?」
男 「今はね。でも、糸の太さや強さは変わりますから」
女 「おかしなこと言うのね。赤い糸が、あなたには見えるってわけ?」
男 「ええ。見えるんです」
女 「どんな風に見えるの?」

酔っ払ってはいないようだけど、不思議な話をする男。
さっきまでのふさいだ気持ちが、少し軽くなったような気がする。
女は男の話に身を乗り出した。

男 「本当に、糸がついているんです。赤い糸が小指にね。
   で、糸の先は、恋愛中の人に繋がっているわけです。」
女 「え、運命の人にじゃないの?」
男 「運命の人っていうのは、今そのときに恋愛している人のことなんです。
   これから出会う予定の人にも、もちろん繋がってはいますけれどね。」
女 「それじゃ、糸は一本だけじゃなくて、いっぱい付いているって事?」
男 「そうですよ。僕には、そういう風に見えます。」
女 「じゃあね、私の小指には今、何本ついているの?」
男 「一本ですよ」
 
しばらく、ふたり見つめあう。

女 「そ、そうか・・・じゃ、この一本が無くなったら、もう私に出会いはないってことね?」
男 「そうかもしれないです」
女 「そうかもしれないって・・・本当はどうなのよ」
男 「すみません。僕は、占い師じゃないんです。ただ、赤い糸が見えるだけなので
   なんとも答えようがないんです。
   赤い糸って、面白いんですよ。心のつながりが強ければ強いほど
   太く強く結ばれていく。逆に、心が離れていくと、細くなってしまう。」

男が女に耳打ちする。

男 「ほら、あそこのふたりを見てください」
女 「?」
男 「あそこは、たぶん別れ話をしています」
女 「うそ!」
男 「ホント。今にも糸が切れそうです。」

男が指差す男女は、何事もないように
落ち着いて言葉を交わしている。
普通のデートのように見える。

男 「ああ、切れそうだ」

向かい合って座っていた男女は違う方向を見ながら、立ち上がる。
男が勘定書きを手にして、女に見せる。
うなずく女。そして、カバンの中から財布と小さな箱を取り出す。
勘定の半分の金額のお金と一緒に、その箱を、男に渡した。

男 「おしまいです。糸が今、切れました」

男が支払いしている間に、ひとりでドアから出て行ってしまう女。
箱の蓋を開ける男。指輪が入っている。

女 「別れ話だったんだ・・・」
男 「そうなんです。こういう感じで、糸が見えているのです」
女 「私の糸は、まだ繋がってる?」
男 「ええ。もちろん、細くはなってますが、繋がってますよ」
女 「よかった・・・・」
男 「不思議なものですよ。アツアツでベタベタに見えるのに、糸はか細くて
   いつ切れてもおかしくない恋人同士だとか、お互い愛想なくて言葉もなくて
   一緒にいるのがつまらないように見えるふたりが、実は強く結ばれていたり
   わからないものです。」
女 「なんだか、面白そうね」
男 「そうですか?そうでもないですよ」
女 「自分の糸は見えないの?」
男 「見えますよ。周りの人たちの赤い糸が見えるようになってすぐに
   自分の指にも糸がついていることに気がつきました。
   それで、糸をたどってその先に誰がつながっているか、探したんです。」
女 「会えたの?糸が繋がっている人に」
男 「ええ。会えました。」
女 「そして、好きになった・・?」
男 「(うなずく)もちろん、好きになりました。嬉しかったですよ。
   会うたびに、糸が太くなっていくのが、目に見えましたからね。
   幸せでした。でも、あるとき彼女の指に細い糸が増えていることに気がつきました。
   僕たちを結び付けている糸の太さとは比べられないほどの細い糸でしたが
   気になってしまって・・・・。
   糸は見えているのに、彼女の気持ちを確かめたいという想いが強くなって
   あれこれ、しつこく質問したりして、彼女を不機嫌にさせてしまいました。」
女 「嫉妬?ヤキモチやいたのね」
男 「私のこと、そんなに縛り付けたいの?・・・って、言われましたよ。
   見えない糸で彼女を縛っていたのかもしれないですね。
   そんなことを繰り返すうちに、僕との糸はだんだん細くなってしまって
   代わりに、もう一本の細かった糸が、太くなりだしたんです。
   焦りました。
   なんとか、また僕たちの糸を太くしようとして頑張ってみました。
   だけど、ダメだったんです。
   彼女は僕に対して、変わりなかったのに、僕はひとりで空回りしていました。
   糸が細くなっているだなんて、彼女にはわからない。
   やがて、糸はますます細くなって、今にも切れそうになってきました。」

男、グラスに入った酒を飲む。

男 「その日は朝からなんだか嫌な予感がしていたんです。
   彼女から電話があって、今から会いたいって言うんです。
   糸は、もう本当に切れそうなくらい細くなっていて、僕はなるべくそれを
   見ないようにしながら、彼女に会いに行きました。
   彼女に会って話しをしている間も、泣きそうでしたよ、僕は。
   いろいろなことを、彼女は言いました。僕は彼女を見ることができないで
   うつむいて指の糸ばかりを見つめていました。
   彼女が、僕の名前を呼びました。顔を上げると、彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめて
   さようなら、と小さく言ったんです。
   そのとき
   赤い糸は音もなく切れ、粉のような光の粒に一瞬姿を変えて
   消えてしまいました。」

黙ったままの女に気がつく男。

男 「と、まあ、こんな風に見えるので、あまり面白いわけでもないんですよ」
女 「そうか・・・そうですよね・・・。糸が見えているって、、、良いことなのかしら。」
男 「どうでしょうね。すべて見えることが良いことかといったら
   そうじゃないといいうこともあるし・・。
   ただ、僕は見えている分、その繋がりを大事にしていきますよ。
   切れてしまうことを止める事はできないけれど
   切れないように努めたい、とは思っています。」
女 「そうね。私も、大事にしなくちゃね」
男 「そうですよ。悲しい思いはしないことにこしたことはないですからね」
女 「ありがとう。さっきまで、彼とうまくいかなくて落ち込んでたんだけど
   なんだか気持ちが明るくなったわ」
男 「こちらこそ、御礼を言いたいですよ」
女 「あら、どうして?」
男 「こんな話しを素直に聞いてくれたのは、あなたが初めてですから」

男は笑顔でグラスを上げる。
微笑んでグラスを持ち上げ、乾杯する女。
男が辺りを見渡す。次第に明るくなる店内。
客たちの指に赤い糸がついているのが見えてくる。
そして、カウンターの男と女の間にも
赤い糸が結びついている。

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