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freedom  



その男が初めてこの部屋にきたとき
どことなく自分に似てるような気がした。
しばらく何もしようともせずに
ただ、私を眺めているだけだった。
「脱ぐわよ。それとも、脱がせてくれるの?」
そう言うと、ようやく男はあたしに手をかけた。

ここでいろんな客をとってはいるが
終わったあとで、もう一度会いたくなる客なんていない。
だけど、この男は違った。
上着のポケットから、くしゃくしゃの札を出しながら
「またくる」
と男が呟いた時
あたしの中でなにかが始まった。

この部屋に毎日くる男がいる。
愛人なんて言ってるが実際はあたしの稼ぎを当てにして
美味しい蜜を吸いに来るギャングの下っ端にすぎない。
いっぱしに恋人気取りで、浮気してないかどうか探りをいれる。
たくさんの男と寝ていてもそれは仕事だからかまわないらしい
「オレはおまえを縛る気なんか、さらさらないぜ」
格好いいこと言ってはいるが
自分の金づるを横取りさえしなければ、
誰とどんなことしようが知ったこっちゃないってのが本音なんだろう。
一緒にいるだけで反吐が出そうだ。
こいつと手を切る方法はないものか
ベッドの中でだらしなく伸びている男・・・背中の十字架のタトゥーが
息をするたびにゆっくりと上下に動くのを横目で見ながら
あたしは煙草に火をつける。

「ねえ、最近イヤな客がいるんだけど」
「イヤって、、どうイヤなんだよ」
「金を払わない客」
男がぴくり、と反応する。他のことなら笑って済ますくせに、金のことだと敏感だ。
「ここんとこ、続けて逃げられててさ・・・」
「なんでもっと早く言わねえんだよ」
「ちょっと怖くてさ」あたしは、肩をすくめる。
「次に来るのはいつごろか、わかるか」
「明日の夜」
うなずいて、十字架野郎が言った。
「わかった。オレが行くまで、引き止めておけよ」

車のテールランプが下で止まった。
あたしは窓を開けて叫ぶ。
「誤魔化すんじゃないわよ!こんなんじゃ足りないって言ってるじゃない!!」
男が車から飛び出してくる。
勢いよくドアが開けられた時、あたしは客に殴られていた。
突然、見知らぬ男が部屋に飛びこんできたのを見て、客の動きが止まる。
反撃しようとするあたしを、十字架野郎は押しとどめた。
「何があったんだ?」
「こ、この男が、また金をはらわないで行こうと・・・」
「そうなんですか?お客さん」
下っ端とはいえ、ギャングだ。睨みつけられた客は完全にフリーズしている。
「この女もボランティアで寝てるわけじゃないんでね」
「か、金はちゃんといつも・・・」
「ウソよ!今日は今までの分、はらってもらうわよ!」
あたしの手に護身用の銃が握られているのを見て
十字架野郎の顔から、血の気が失せた。
「おい!そいつをしまえっ」
だが、遅かった。客はゆっくりと腰の後ろから、銃を取り出す。
あたしの銃と客の銃。その銃口は間にいる十字架野郎に向いている。
危険を察知して逃げようとした瞬間
頭に一撃を受けて、十字架野郎は意識を失った。


流れる景色を見ながら風をうけてあたしは車を走らせる。
客はあたしの手で撃たれて死んだ。
目を覚ました十字架野郎が見たのは、血の海に横たわってる客と
煙草を吸ってるあたし。
殺人を犯した女は、もう愛人でも金づるでもないらしい。
「始末しとけよ。オレはもう、関係ないからな」
蒼ざめた顔のまま、あいつは出て行った。
あたしの部屋から、出て行った。
窓の下、急発進していく車のタイヤが軋んだ音をたてるのを聞いて
あたしはゆっくりと、横たわる男にくちづけをした。
彼の頬がかすかに、ゆるんだ。

車は街を抜け、次の街までの道を真っ直ぐに走ってゆく。
あたしは、一人じゃない。
あたしに殺されたはずの男が隣で微笑んでいる。
たどり着いた街でどんな暮らしが始まるのか、あたしにもわからない。
だけど、とにかく。
今は、ここがあたしの居場所だ。
アクセルを踏んで、あたしたちはスピードを上げた。

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