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奇跡 

私の父はどうやら何人もいるらしい。
彼らは 時折、ふっと現れてふっと消えていく。
母と楽し気に会話してキスして去っていく。
若い男もいれば中年の男もいる。
私を抱き上げて頬擦りすることもあれば
悲しそうにただじっと見つめているときもある。
母の好みなのか、年齢はそれぞれ違っていても
背格好や顔かたちはなんとなく皆似たような感じだ。
そして母と私を呼ぶ声はいつも同じだった。

母は変わっている、と祖母が嘆いていた。
どう変わっているかは私が一番良く知っている。
本当の父の顔を知らない幼い頃から
母はいつも私に父のことを話してくれていた。
「あなたのお父さんはね
時間を移動できる人なのよ」

最初は5分ぐらい先に移動しただけだったの。
「もうすぐ郵便配達がきて、
君の友達の引越しのお知らせを渡すよ」
そんなまさか、と思うことが本当におきて
彼はどんどん遠い未来のことを言い当てるようになっていった。
そのうち、私の目の前から消える時間が次第に長くなり
ある日彼は震えながら言ったわ。
「怖いよ。もとの時間に戻れなくなっている」
「自分の思うとおりにはならないってこと?」
「そうだよ。自分の意思ではどうにもならないんだ。
見えないちからに飛ばされる、って感じなんだ。」
「いろんな時代に行ってしまうの?」
コクリとうなずいたそのすぐ後彼は消えて、
次に現れたときはかなり年をとっていたわ。
「君はいつまでも若いね」
私を抱きしめながらそうつぶやいた彼は
たぶん私の最期を見てきたのだと思うの。
生まれたばかりのあなたの先行きも
知っているようだった・・・・・

父のことを病床で繰り返し母は教えてくれたけど
それは病のせいだと私は思っていた。
そして父のことを少し恨んでもいた。
本当は父は私たちを捨てたに違いない。
実の父を知らない私に
母は亡くなる前に
夢物語を聞かせてくれたのだろう、と。


「送っていこうか?」
彼が心配そうに言うのに笑顔でこたえて
私は家路を急いだ。
結婚式の打ち合わせで帰りが遅くなってしまった。
「やっぱり、送ってもらったほうが良かったかしら」
後悔し始めたけど、もう遅い。
薄暗い夜道を歩いていると、
見知らぬ人物が前方に立ちふさがった。
「だ、だれ?」
その人物はコートをはだけ、
私のほうに何かを差し出した。
しわくちゃな指。
老人は一枚の紙を月明かりの下に広げて見せた。
何かの記事。
見慣れた教会の庭の写真。
日付を見て、私は叫んだ。
「お父さん!?」
老人が微笑んだと同時に
まるで何かに吸い込まれるように
彼の姿は消えていた。


「わかってくれたのね」
「うん。間に合った」
「良かった・・・これであの子は助かる」
ベッドに横たわりながら
彼女はやせ細った指で僕の手をとった。
「ほら。見てごらん」
僕は一枚の新聞記事を手渡した。
震える声で見出しを読む彼女。
「・・・大惨事・・・挙式の最中に自家用ヘリ墜落」
美しい教会の庭に不似合いな、粉々になったヘリコプターの残骸の写真。
息をのむ彼女の目の前で、
記事の見出しがゆっくりと変わってゆく。
「奇跡・・・突然のキャンセルで無事・・・」
うん、僕はうなずいた。
伝える事ができた。そして娘は挙式の日程を変更してくれたのだ。
「あなたが奇跡を起こしたのね」
彼女は目を閉じて安心したように微笑んだ。
確かに奇跡だよ、僕は彼女の頬を撫でながらささやいた。

自分の思うとおりの時間にいけるのは
たぶん、これが最初で最後だろうから。


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