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あの桜の樹の下で 


  《「思いがけず告白 」「急いで飛び込んだ」
  「暑いからと言って無邪気に」 「トイレを開けてみると」

  上の言葉をすべて使って 推理小説 風に》





  彼女と会うのは 何年ぶりだろう
  中学校を 卒業して以来だから・・・
  
  計算するまでもない
  僕は まだ大学生になったばかりだ。
  別々の高校に通ったのだから
  彼女と会っていないのは
  その3年間だけ、、、ということになる。

  3年間という時間が 短いのか、長いのか
  それは 彼女と会ってみれば
  答えは簡単に出るのだろう。
  
  あの最後の日
  彼女から、【思いがけず告白】された僕
  それまで、彼女の事を
  まったく意識していなかったといったら
  ウソになる。
  可愛い女の子だった
  長い髪の毛をポニーテールにしていたっけ。

  あのとき、何て言われたのか
  言葉は忘れてしまった。
  というより、最初の言葉だけで
  舞い上がってしまい
  聞いちゃいなかった、というのが正しい。
  
  名前を呼ばれて、振り向いた
  その声の感じが いつもとは少し違ってたから
  予感は あったのだけれども。
  
  「 突然なんだけど・・・」
  なに?
  「 あのさ、今日でもうお別れじゃない?」
  うん、そうだね
  「 わたし、前からあなたのことを」
  ○▲◇※?†△・・・・

  記憶は、そこから すっ飛んでる。
  なんて答えたのか 思い出せないが
  とにかく、高校時代につきあってなかったのだから
  彼女の果敢な試みは
  失敗に終わったわけだ。
  
  それが、まったく突然に
  そう、前回と同じように
  まるっきり 突然に
  昨日、彼女から
  連絡がきたのである。




  「 もしもし、覚えていますか?」
  どこかで聞いたような 声だった。
  「 ほら、、小学校と中学校で一緒だった」
  彼女だ。
  「 ぁあ 久しぶりだね。元気だった?」
  「 うん あなたも?」
   しばらく他愛の無い話が 続いて
   それから、少しの間をおいて
   彼女が早口で 切り出した。

  「 実は  お願いがあるの。あなたじゃないと ダメなの。」
   何だ? 
   僕じゃなかったら ダメなこと?
   途端に、心臓の鼓動が デカクなる。
  「 そう。 小学校が一緒のあなたじゃないと  」  
      
   彼女の話は、こうだ。
   卒業記念で、卒業式の日
   学校の校庭に タイムカプセルを埋めた。
   来年、同窓会を開くので
   それを 掘り起こしたいのだが
   埋めた場所が 今ひとつ正確ではない。
   そこで、僕にも 協力してほしい・・
   学校がらみ。
   色気の無い話だ
   何を 期待していたんだろう。

   そういえば、タイムカプセルを埋めた
   かすかに、そんな記憶は ある。
   しかし、それが どこだったか・・
   咄嗟には 思い出せなかった。
  「 わからないよ 」
   僕は 正直に答えた。
   彼女は 電話の向こうで
   次の言葉を 捜しているようだった。

  「 じゃ、明日、一緒に小学校に行ってみない?」
   こ、これは、お誘いと言ってもいいのか?
  「 うん、そうだね。その場に行ったら、思い出すかもしれないし。」
   
   こうして、彼女と僕は 会うことになったわけだ。
   
   夏の夕方、僕は彼女に会うために
   ドアの閉まりかけた 電車に【急いで飛び込んだ】。
   彼女は この三年間で、どう変わってるんだろう
   僕は、車窓を 眺めやる
   夕陽が あつく揺らめいていた。





  それにしても、彼女との記憶が薄い。
  小学校と中学校の 9年間を
  同じ学校で すごしたというのに
  彼女のことは なにも覚えていないなんて
  これから 会うって言うのに
  失礼なんじゃないか?
  僕は ぼんやり考える
  
  学校が同じでも
  クラスが一緒じゃなかったら
  覚えていないもんだよな
  僕は 3組で
  彼女は・・・・
  彼女のクラスは・・・
  彼女といつも一緒にいた友人は・・・
  彼女のクラブは・・・

  時計の針を逆回転させながら
  僕は 次第に焦りを感じてきた
  知らない
  忘れているんじゃない
  知らないのだ
  彼女のことは
  記憶の海のなかに
  なにひとつ 浮かんではこない

  なのに なぜ
  彼女だと わかったんだ?
  声だけで?
  顔も姿もまだ、見ていない
  それなのに なぜ?

  漠然とした不安が
  僕の心に 広がり出した
  それは 白いハンカチに落ちた一滴の血のように
  僕の閉じたまぶたの裏に 広がっていく
  夕陽が 無性にまぶしかった。

  駅について
  電話をしようと思い立った。
  静かなところで 話したかった
  【トイレを開けてみると】 洋式だ
  蓋をさげたまま、僕は腰掛けて
  ケイタイを取り出し、彼女の番号を押した。
  繋がることを 半分祈る。
  あとの半分は このまま電車に乗って
  帰りたいような気持ちの 自分だ。

  繋がった。
  呼び出し音を 数える。





  「 もしもし。」
  繋がってしまった。
  僕は 正直に話した
  記憶が曖昧だということ、手伝えないかもしれないということ
  「 それに・・君の事、覚えてないんだ、よく 」
  「 そうなの?」
  彼女の声に、不思議と 落胆は感じられなかった
  「 でも、とにかく会ってみましょうよ。
     会ったら思い出すかもしれないし・・・ 今どこにいるの?」
  「 駅だよ。」
  「 あら、偶然ね。私も今、駅にいるの。じゃ、駅前で会いましょう 」

  結局、会うことになってしまった
  まぁ いいか。覚えてないという失礼は
  知られてしまったことだし
  僕は のろのろと改札を抜ける。
  一人の女性が、足早に近づいてきた
  「 お久しぶりね。」
  「 こ、こんにちは 」
  彼女・・・なのだろう、長い髪だったはずの少女は
  少し茶色に染めた ショートボブで
  僕を 上目遣いに、見つめている。
  
  僕は、記憶の引き出しをまさぐる
  猛烈なスピードで、あらゆるキーワードを
  鍵穴に 差し込んでみる。
  だが、彼女の記憶は 出てこない。

  「 行きましょう。もうすぐ、日が暮れるわ」
  僕らは、並んで歩き出した。
  こうして、二人で歩いた記憶・・・
  はっきりとはしていないが、頭のどこかに
  そんな記憶が残っているような・・・
  途中、【暑いからと言って無邪気に】彼女はブラウスを脱いだ。
  タンクトップ一枚の彼女から
  不自然に 視線を避けながら
  僕は話題を探した。
  ふと、彼女のスカートを見て 僕の足が止まった
  
  ふわりとした薄いブルーのスカート
  さっき、ここに来る時に飛び乗った電車
  隣の車両に 同じように飛び込んだ女性のスカートの色を
  僕は 目の端で感じていた
  同じ色のスカートだった。

  彼女は、僕のあとを つけていた?





  彼女は、僕のあとを つけていたのだろうか?
  駅にいたのは、偶然なのか?
  記憶が薄い、という僕に
  なぜに、これほど固執するのか?

  「 どうしたの?ほら、そこの先を曲がったら学校よ。」
  彼女が 不審そうに僕の顔を 覗きこむ。
  そして、僕の手をしっかりと握って歩き出した。
  逆らえない、抗えないちからを感じながら
  僕のこころには 言いようの無い不安が満ちてくる。
  そして、とうとう 小学校に着いてしまった。

  夕暮れの校庭。
  日中の暑さを まだ残して揺らめいている陽炎
  その端に、一本の大きな桜の樹が 佇んでいる
  
  彼女は道具倉庫のありかを 知っていたのだろう
  スコップを そこから取り出して  
  桜の樹の下へ 歩いていく。
  「 ねぇ、本当に覚えていないの?」
  振り返った彼女の顔には
  獲物を 追い込んだ狩人のような微笑が浮かんでいる。

  「 ・・・・うん。覚えていない 」
  「 ちょっと 掘ってみない?」
  「 いいのかい、勝手にそんなことして。」
  「 学校の敷地内ってね 」 彼女は桜の樹を見上げながら言う
  「 勝手に掘っちゃいけないんだって。」
  「 そうだろう?」
  「 何が 埋まってるか、わからないから・・だそうよ 」

  僕は 思い出していた。
  彼女と、なにか埋めたことがある
  だが、それが何なのか
  もやもやとした霧が 僕の頭の中を漂っている
 
  「 タイムカプセルだなんて、嘘だよね?」
  彼女が 黙った。
  「 きみと二人で、なにかを埋めたことがある・・それは覚えているよ。」
  彼女が スコップをもちかえた。
  「 だけど、なんだったのか、どこに埋めたのか・・
     それは覚えていないんだ。」

  そのまま、彼女の言う通りに
  掘ってみたら 
  なにを 埋めたのか
  真実が はっきりしただろう
  だが、僕はそれ以上のことは できなかった。 
  しては ならないような気がした。





  「 本当に私のことも、忘れているのね。」
  「 ・・・うん、ごめん。」

  彼女は僕の顔を 哀しそうに見つめる
  「 あなたと私は、幼馴染だったのよ。ずっと一緒だったのに・・・。
  中学校を卒業してから、私は引っ越してしまったけれど。」
  幼馴染?
  それなのに、覚えがないなんて
  どういうことだ?

  「 この間、おばさまにばったり会ったの。そしたら、あなたが・・・」
  僕の母に?会った?きみが?
  「 中学校を 卒業してから、記憶障害に 陥って、
    ある時期のことをすっかり 忘れているんだって、聞いたのよ。」
  
  記憶障害
  そんなことも、あったのだっけ・・・
  遠い思い出のように
  ぼんやりと 僕はつぶやいた。

  「 だから、小学校に来れば何か思い出すかもしれないって、思って。」
  
  僕らは来た道を 戻りながら
  いろいろな 話をした。
  他愛もない話。最近の自分のこと。
  駅に着いて、彼女は 手を振りながら言った。
  「 じゃ、また。連絡するわ。何か思い出したら 教えてね。
    あなたのこと、これからも 見守っていくつもりよ。」

  たしかに、記憶がうまく引き出せないでいた。
  それは たぶん、彼女のせいだ。
  僕は 自分の記憶にカギをかけていた。
  忘れたいことを 上手く忘れていたのだ。
    
  彼女は 確かめるために現れた。
  僕が 思い出しているのか、どうか
  黙っていられるのか、どうか
  
  そして、今回は 見逃した。
  
  
  あの日、僕は 彼女の共犯者になった。
  彼女と ふたりで
  なにを 埋めたのか
  僕は これからも 黙っていることだろう
  忘れ続けていくだろう
  真実が 明らかになったとき
  あの 桜の樹の下には
  次は 誰が眠ることに なるのだろうか


                   



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