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水天宮 



遠くから歌声と音楽が聞こえてくる。
甲高いオンナ系の歓声、酒瓶が割れる音。
シャラシャラと硬質なモノがすれるような音が近づいてきて
ふうわり、磯の香りが頬をかすめた。

俺はパチ、と目を開ける。
目の前にフワフワと揺れ動く女の平ったい顔があった。
「・・・いま何時だ?」
目覚めてみると部屋のなかは肌寒い感じで
俺は体にまとっていた白い布をもう一度、巻きなおした。
「何時だなんて」
ポコポコと泡のような声で、女は笑った。
「ここには時間など、ありません」
窓らしきものから、薄く青い光が差し込んではいるのだが
ちっとも暖かい感じはしない。
日当たりが悪いせいか、部屋のなかはどことなく湿っぽく
壁を指で触れると、じんわり、水滴が浮かんでくる。


「もう、どのくらい、ここに?」
「忘れてしまいなさいな」
女は俺に液体の入った杯を手渡して、ニッコリと微笑んだ。
この液体は不思議な味がする。決して美味いものではない、なのに
なぜか飲みたくなってしまう。体が欲している、という風なのだ。
俺は杯にクチをつけながら、妙に首のあたりがこわばっているのに気がついた。
「寝てばかりいるからかな」
「どうしまして?」
「なんだか、ここら辺が・・おかしな感じだ」
「あら」
女はぬるりと俺に流し目をしてベッドのふちに腰掛けてきた。
「寝てばかりでもありませんわ」
「・・・」
「ちゃんとワタクシを抱いてくれていますでしょう?」
杯を空けると同時に、女が波のように倒れこんできた。

時間の感覚も地に足をつける感覚も
ずいぶん前に失ってしまったような気がする。
毎日毎日、女たちと戯れ
俺は一歩も部屋から出ずにただただ液体を飲み続けた。
「なあ、俺はいったい、いつからここにいるんだ」
「いつからですって?」
「どうやって、ここに来たんだ?」
「そんなこと、、忘れたほうがいいわ」
「・・・そうか、・・・・もういいよ」
その日、初めて女からの杯を拒んでみた。
一瞬、表情を曇らせた女は、だがすぐに笑って言った。
「かまいませぬ。もう十分ですもの」
「十分・・?」
「ええ。そこに、ホラ」
水のように揺れる鏡を、女は差し出した。



鏡をのぞいた途端、すべてを思い出していた!
俺はたしかあの日、大亀にのってここにきて

・・・・・・

鏡のなかに映った俺の頬の横には
大きな赤黒いエラが脈を打っている。

驚きのあまり声の出ない俺を見て、女はスルリと衣を脱ぎ捨て
銀白色に輝く尾びれを巻きつけてきた。

「これで、いつまでも一緒ね・・・ウラシマさん」





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