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あなたへ 


      “ポケットの中から ”  “焼け落ちたそこには”
      “宝の地図”  “ さびれたホテル”

      ・・・・この言葉を使って恋愛小説風に・・





さびれたホテルに泊まった。
さびれたというのは少々語弊があるかもしれない。
建物は古いが客が少ないわけではない。
いや、むしろ夏の観光シーズンには予約がいっぱいで
なかなか泊まれないところらしい。
今はシーズンオフなのだろう。意外にすんなりと予約ができた。
ここは以前は銀行だった建物であちこちにその頃の名残を見る。
分厚い金庫のドアのむこうはカフェになっており
貴重品が眠ってたであろうそこで、今は自分が珈琲をすすっている。
ポケットの中からくしゃくしゃになったメモを取り出す。
かすれた字で宝の地図と書いてある。
自分は子供のころ、このホテルの近くで暮らしていた。
港を背にして坂を上がったところに、蔵のある古い家。
今は誰も住んでいないその家は、市の歴史的保存建物にいつのまにか
指定されて、うっかり手をつけられない状況だ。
あの人も、近くに住んでいた。

小学生のころから高校までずっと一緒だった。
高校を卒業して一度だけ会ったことがある。
港の近くの喫茶店で待ち合わせて
ロープウェーの止まった目の前の山に歩いて登った。
春はまだ気配だけを感じさせ、山には雪が残っていた。
夕暮れだった。
「一番星だよ」
その人が得意げに指差した空に星が光っていた。
先に違う星を見つけていた自分はトントンと肩を叩いて
「あそこにも」その人を振り向かせた。

ふたりは笑って手を繋ぎながら山をおりた。
そのときの思い出のメモを休暇前に見つけたのは
何かの偶然なのだろうか。
その人も今は違う町に移り住んでいる。
ここで会うこともないはずなのに。

「今の季節には珍しく雨ですね」
ホテルの従業員が話しかける。
いつもなら雪が降っている頃だ。
なにか違和感が残っていたのはそのせいか。
夜になって冷えたら雪になるのかもしれない。

その晩、けたたましいサイレンの音で目が覚めた。
火事だ。
すぐ近くの商店街にサイレンが集まっている。
ホテルの中は騒然としている。
いそいで服を着て外へ飛び出すと、すでに野次馬たちが
夜空の明るいほうへと走っている。
自分も走った。
古い商店街だ。子供のころから遊んでいた場所だ。
そこの停留所から路面電車に乗って
あの人と高校まで通った町だ。

炎は建物を呑みつくいていた。
何軒か並んだ店を塊りのまま熔かす。
叫び声、怒号、ささやき、焼ける匂い、水しぶき・・・
それは まるで夢のように続いていった。

休暇が終わって仕事に戻る日。
自分は焼け跡に立っていた。
建物が焼け落ちたそこにはなにも残らない。
思い出は儚い。
だが自分の記憶はこの命が尽きるまでは永遠だ。
あの人も自分との記憶をいつまでも抱き続けてくれているのだろうか。

もう二度と会うことはないかもしれない
あなたへ

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