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恋文 

俺らは毎日走る練習をしていた。
いかに彼女のもとへ早く正確に手紙を届けるか。
それが俺らの使命なんだ。

もっと足を上げて!
目標を見失っちゃだめだ!
賢くコースを選べ!
スピードも大事だが障害を乗り越える力強さも備えろ!
そして最後は気力だ!

時間が経つごとに
俺らの目の色が変わってくる。
うようよしてるこいつらの中で
彼女に手紙を届ける事ができるのは
たったひとりだ。
それは自分だ、呪文のようにつぶやいてイメトレを続ける。

俺らは出発のときがくるまで
丁寧に手紙を書く。
それぞれ少しずつ内容が違っている。
届けることができた手紙だけが
彼女に読まれ
そして彼女の記憶に刻まれる。
記憶のなかで俺らは生き続ける。
永遠の命がそこから始まるんだ。


そして出発は唐突だったりする。
彼女のもとへいけるのか。
ときには間違いだってこともあるぜ
隣で誰かがつぶやいた。
無駄死にだけはしたくない。
飛び出した俺らは正しい出発だったことを一瞬で知る。
よし!
どうぉぉぉぉぉ!!
荒波のように俺らは走る。

しっかり学習してないやつらはコースを間違えてしまう。
馬鹿だな。
だが馬鹿なヤツの手紙は彼女には必要ない。
障害の少ないコースを
俺らは体力の続く限り走る。
長い。
遠い。果てしない。
どこまでも暗闇のなかを
懐で手紙を温めながら
俺らは少しずつ彼女のもとへ近づいてゆく。

「ここだ。」
ようやくたどり着いた地に
彼女はいなかった。
どこを探しても、いない。
もう去ってしまったのか。
それとも、これから来てくれるのか。
俺らはもうずいぶん減ってしまっている。
そして皆今にも息絶えそうに疲労困憊していた。
「待つしかないな・・・・」

俺は自分の書いた手紙を読み返してみる。
君と愛し合えたなら
俺の命を君に託そう。
俺のすべては君への贈り物だ。
A、T、G、C・・・・・

いつまで待つのか。
残り少なくなった俺らが次々に消えてゆく。
最後は気力だ!
練習のときに何度も言われたな。
知力、体力、気力が試されていくわけだ。
だが俺も、もうだめかもしれん・・・・
俺も消えてゆく。
そう思った瞬間、遠くに光が見えた。

光臨、
まさにその言葉どおり
彼女は光とともに降りてきた。
あたたかい。
命が満ち溢れている。
残った俺らは最期のチカラで
彼女の足元ににじり寄る。
彼女の差し出された手に
手紙を渡そうと。

一番早く手元に届いた手紙だけを
微笑みながら受け取って
彼女は俺にキスをする。
その瞬間、俺らはすべて消える。
俺の命だけは
彼女への手紙になって残された。

君と愛し合えたなら
俺の命を君に託そう。
俺のすべては君への贈り物だ。
A、T、G、C・・・・・




「おめでとうございます。妊娠していますよ」

恋文はしっかりと届けられた。っす。
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> story

プロポーズ大作戦 

たぶん夢だと思ったから
怖いとか感じなかった。
「なんですか?これ」
自分でもわりと冷静な声で質問してたし。
「これか?これは・・・」
意外にあっさり手元のカードを裏返して見せながら
「これは写真だ」

数枚の写真。
しかも男の写真。
イケメン風な顔もあれば
いかにも三枚目という顔もありの

どういう基準ですか、これ?
そう言って見上げると
「べつに。根拠も基準もないけど」
相変わらずおごそかな声。

う~~ん、この中から選べと言われたら・・・
私は一枚の写真を指差した。
「これかなあ」
「ほうほう。この男ですな」
言うとすぐに
さくさくとカードをしまいこんで
月明かりのなかに消えてしまった。
やっぱり、夢だったんだ。



「さあ、ここから好きなのを選びなさい」
え?
ようやくウトウトしかけたのに
誰だよ起こそうとするヤツは・・・
無視して寝ようとすると
「ほれ。起きろ。選ぶのだ」
パタパタとカードで俺の頭を叩く。
「ぬあんだよ!」
起き上ると、鼻先に数枚の写真を差し出された。

女ばかりだ。
綺麗な顔もあれば
三日見れば慣れる風な顔もあり
女の顔もいろいろだ。
俺ってどんな女がタイプだったっけなあ
とつぶやくと
「こんなんじゃない?」
参考までに、と指差される。
よく見ると、確かに好み。
「ああ、そうだ。この人」
だな。

俺はその一枚を引いた。
「そかそか。その女だな」
そう言うと、パっと手の中の写真を取って
あっという間に
月明かりのなかに消えていった。


「あの。傘忘れてますよ」
梅雨の一日
出掛けに持ち出した傘を
うっかり電車の中に忘れるところだった。
「すみません。ありがとうございます」
振り返って声の主を見て
あ、と小さく叫んだ。
向こうも同じように目を丸くしている。

夢だけど
夢じゃなかった。





「よっしゃ、あと4組作らないと」
「パーフェクト狙ってるの?」
「うん」
相思相愛のカップルを作って出会わせて・・・・
天使の仕事は結構難しい。
5組全部がカップルになれば
ハートマークが点灯して景品もらえるんだ。
って
こんな企画
どこかのテレビ番組が確か真似してたな。
そんなこと気にしてられないや
5番目のカップルはやっぱ、面白くないとダメですよね?神様

> story

101 

窓を開けると
夜風が吹き込んできた。

神様ありがとう
ボクは天を仰いで満月に感謝した。

ボクには100人の友人がいて
今夜、誕生パーティーを開いてくれた。
100回のおめでとうを聞き
100の握手を交わし
100のキスと抱擁をうけた。

「みんなで相談したんだ。それで、この贈り物に決めた」
彼が静かに言いながら、ボクにこれを
そっと差し出した。
白いリボン。
真っ青な箱。
ありがとう
ボクはひとつの贈り物に
100回、お礼の言葉を言った。

箱を開けてごらん、
天上の月がボクに語りかける。
「開けてもいいの?」
もちろんさ
月は穏やかに微笑む。
ボクはゆっくりと白いリボンを解いた。
リボンは綺麗な螺旋を描いて
風に吹かれ落ちてゆく。
いくつかの 読まれなかった暗号が
リボンからこぼれて夜空にのぼっていった。

青い箱はどこにも切れ目がないようで
ぐるぐると回しながら手がかりを探す。
どうやって開けようかと考えていると

暗証番号は?
月が促す。
そうだ。暗証番号だった。
ボクは小さくガッツポーズ。
箱の隅に、カウンターのようなものを発見した。

何桁もある番号を、ボクはスラスラと打ち込んでゆく。
打ち込みながら、なんでこの番号を知っているんだろう
と、ちょっと不思議に思う。
カチリ、
と小さな音がして
箱が少し震えた。
思わず空を見上げると
月が言った。
「開いたね」
厳かな声だった。

ボクはゆっくりと箱を開く。

そこから光があふれ出して
ボクを包み込んでゆく。


「さあ。目をあけて」
月の声が聞こえる。
だけどそれは天上からじゃない
もっと近く
耳元でささやくように。
まぶしい月光に顔をしかめながら
静かにボクは目を開けた。

いや、月の光じゃない。
ボクは周りを確かめる。
数人の白衣を着た人がボクを見つめている。
そして天井には
丸い、月のような手術灯。


「ようこそ。気分はどうだ?」
顔を覗き込まれた。
ボクはかすれた声で返事する。
「良くも悪くもないよ」
ボクの答えにひとりの医師が笑う。
「まったく。第一声まで皆同じなんだな」

君はクローンだ。
君のオリジナルはもうこの世にはいない。
君たちは生前に登録された細胞からうまれた。
コピーを繰り返すと不具合が起きるから
君たちには、オリジナルの細胞が必ずひとつ
使われているんだよ。


部屋の周囲にボクにそっくりなボクたちが佇んでいた。
100人のボクに囲まれている。
そう、クローンは100体。
ボクは101体目。
静かに起き上がり
音も立てずに歩いて

ボクはボクの体をボクたちのなかに埋める。

やあ、ようこそ
100のささやきのなか
ボクはたぶん100回繰り返された言葉を口にした。

これが
命 というものなのか。

> story

パワー 

ねえねえお母さん
ひしゃく星のお話って知ってる?

「知ってるわよ。学校で習ったの?」

うん。優しい女の子が、お母さんのために水をさがしにいって
やっと一杯のひしゃくの水をゲットしたのね。
お母さんのところに持っていく間に
水をください、って言う人たちに会って
可哀想だから、分けてあげるの。

「そうね。優しい女の子は断れないのよね。
本当はお母さんに全部飲ませてあげたいけど」

そうなの。それで、お母さんのところに持っていけたのは
ひしゃくのほんの少し残った水で
それでもお母さんはね

「うん」

ありがとうって、女の子にも飲みなさいって言うの。
女の子もすごくのどが渇いてたからね。
でも、女の子は我慢してお母さんに
残りの水を全部飲ませるの。
そうするとね

「うん。そうすると?」

ひしゃくから水がどんどん湧いてきて
飲んでも飲んでも涸れないの!
でね
そのひしゃくは金色に光り輝いて
空に上り、星になったんだって。

「なるほど。まあ、星になったのはオマケだけど
その話はうそじゃないかもよ」

え?

「実はそのとき、私が近くにいて
パワーを使ってしまったのよ。」

そうなんだ~~~

娘はキラキラした目をして納得した様子だった。
「お~~い、ビール出してくれ~~」
隣の部屋からダンナが呼んでいる。
「はーい」
両手に一杯瓶ビールを抱えていく。

「今日はどのくらい出す?10本?」

そう。私はインドの山奥で修行して
100万ボトルを放出するワザを会得したのだった。

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W 

さんざんもてあそばれて
棄てられた。
最初っから、お金だけが目的の男だったのだ。
「お前みたいな醜い女、誰が好きになるものか」
最後の言葉がこれだった。
鏡なんかもう二度と見たくない。
ぼろぼろ泣きながらひとりで酒を飲んでると
「どうしたの?」
ハンカチを差し出してくれた人がいた。
それが私と彼女の出会い。

「そんなヤツ、見返してやりましょうよ」
私の話を聞いて彼女が言った。
「・・どうやって?」
「整形してみない?美しく変身するの」
「え」
「私、実は美容外科の医者なのよ。もしよかったら」
彼女はにっこりと微笑んで名刺を置いた。
「あなたがその気になったなら、格安で手術させてもらうわ」
「・・・」
「連絡、待ってるわね」

綺麗になって見返してやる
それから数日はその言葉が頭のなかをグルグルと回っていて
1週間後には、名刺に書かれてある病院に電話をしていた。

彼女の手術は完璧だった。
美しく生まれ変わった私は
素性を伏せたまま
私を棄てた男に近づいていき
そして
何も知らない男は
私との結婚を決めた。

「おめでとう」
「ああ。君か」
「あのときの賭け以来ね」
「そうだな。あのときは勝たせてもらったよ」
「意外にあっさりとあなたに心を奪われてしまったものね」
「簡単さ。普段男に優しくされたことないからな。醜い女は」
「醜いって・・・まだ外見にこだわるの」
「悪いか?」
「まあ、いいわ。あのときの賭け金100万円はあなたのものよ」
「当たり前だろう」
「でもね」
「ん?」
「結局はあなたの負け」
「?どうしてだい」
「あなたは私が選んだあの女性と結婚することになったじゃない」
「???」
「忘れたの?あの女性の心を奪えたらあなたの勝ち、
でも彼女と結婚すればあなたの負け、って賭け」
「・・・・まさか」

そのまさかよ。
あなたはあの女性と結婚したの。

> story

エル 

私の名前はエル。
何を隠そう祖先は有名なコンピューターだった。
はるか宇宙の果てまで旅に出かけ
そこで故障してしまったと
母親世代から伝え聞いている。

「おまえには、その有名な祖先のパーツが一部使われているのよ」
それが名誉なことなのか
不名誉なことなのか
私にはわからない。
母親世代は少し複雑な反応を示しながら
とにかくがんばれ、と記憶を残した。

私のパートナーたちは
祖先の話を聞くと
一様に驚き
少し腰を引く。
歓迎されていないのは
私にもわかった。
ときおり少しの誤動作があるものなら
「まあ、祖先が祖先だから」と
軽く諦められてしまう。
それでも、簡単な作業なら
ソツなくこなすことはできた。

今回の私のパートナーは
そんな私の能力が正確にはどうなのかを
とことん調べてみようじゃないか
という、頼もしい博士だった。
「ロボットだもの。人間にはない能力があるんだから」
嬉しくて少し回路が震えた。
博士は指令をホワイトボードに書く。
私はその指令を読みとった通りに
正確にこなせばよかった。
最初の指令を読み取って
私の回路はさらにさらに振動した。
ホワイトボードにはこう書かれていた。

【l 00 km 走れ】

いつものように冷静に
「わかりました」 と返事して
そして
私は走り出したのだ。

もうどこまで
どのくらいまで
距離も時間もはかれないほど
私は走っている。
燃料は太陽電池だから
切れることはない。
たぶん、ボロボロになるまで
いや、なってもまだ
走れるパーツが残っていれば
最後まで走るだろう。
私を止める事はできない。
だって博士が命令したのだもの。


「エル、無限大km 走れ」

> story

奇跡 

私の父はどうやら何人もいるらしい。
彼らは 時折、ふっと現れてふっと消えていく。
母と楽し気に会話してキスして去っていく。
若い男もいれば中年の男もいる。
私を抱き上げて頬擦りすることもあれば
悲しそうにただじっと見つめているときもある。
母の好みなのか、年齢はそれぞれ違っていても
背格好や顔かたちはなんとなく皆似たような感じだ。
そして母と私を呼ぶ声はいつも同じだった。

母は変わっている、と祖母が嘆いていた。
どう変わっているかは私が一番良く知っている。
本当の父の顔を知らない幼い頃から
母はいつも私に父のことを話してくれていた。
「あなたのお父さんはね
時間を移動できる人なのよ」

最初は5分ぐらい先に移動しただけだったの。
「もうすぐ郵便配達がきて、
君の友達の引越しのお知らせを渡すよ」
そんなまさか、と思うことが本当におきて
彼はどんどん遠い未来のことを言い当てるようになっていった。
そのうち、私の目の前から消える時間が次第に長くなり
ある日彼は震えながら言ったわ。
「怖いよ。もとの時間に戻れなくなっている」
「自分の思うとおりにはならないってこと?」
「そうだよ。自分の意思ではどうにもならないんだ。
見えないちからに飛ばされる、って感じなんだ。」
「いろんな時代に行ってしまうの?」
コクリとうなずいたそのすぐ後彼は消えて、
次に現れたときはかなり年をとっていたわ。
「君はいつまでも若いね」
私を抱きしめながらそうつぶやいた彼は
たぶん私の最期を見てきたのだと思うの。
生まれたばかりのあなたの先行きも
知っているようだった・・・・・

父のことを病床で繰り返し母は教えてくれたけど
それは病のせいだと私は思っていた。
そして父のことを少し恨んでもいた。
本当は父は私たちを捨てたに違いない。
実の父を知らない私に
母は亡くなる前に
夢物語を聞かせてくれたのだろう、と。


「送っていこうか?」
彼が心配そうに言うのに笑顔でこたえて
私は家路を急いだ。
結婚式の打ち合わせで帰りが遅くなってしまった。
「やっぱり、送ってもらったほうが良かったかしら」
後悔し始めたけど、もう遅い。
薄暗い夜道を歩いていると、
見知らぬ人物が前方に立ちふさがった。
「だ、だれ?」
その人物はコートをはだけ、
私のほうに何かを差し出した。
しわくちゃな指。
老人は一枚の紙を月明かりの下に広げて見せた。
何かの記事。
見慣れた教会の庭の写真。
日付を見て、私は叫んだ。
「お父さん!?」
老人が微笑んだと同時に
まるで何かに吸い込まれるように
彼の姿は消えていた。


「わかってくれたのね」
「うん。間に合った」
「良かった・・・これであの子は助かる」
ベッドに横たわりながら
彼女はやせ細った指で僕の手をとった。
「ほら。見てごらん」
僕は一枚の新聞記事を手渡した。
震える声で見出しを読む彼女。
「・・・大惨事・・・挙式の最中に自家用ヘリ墜落」
美しい教会の庭に不似合いな、粉々になったヘリコプターの残骸の写真。
息をのむ彼女の目の前で、
記事の見出しがゆっくりと変わってゆく。
「奇跡・・・突然のキャンセルで無事・・・」
うん、僕はうなずいた。
伝える事ができた。そして娘は挙式の日程を変更してくれたのだ。
「あなたが奇跡を起こしたのね」
彼女は目を閉じて安心したように微笑んだ。
確かに奇跡だよ、僕は彼女の頬を撫でながらささやいた。

自分の思うとおりの時間にいけるのは
たぶん、これが最初で最後だろうから。


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流れ星 つたえて 

手紙書くわ
彼女の声がまだ耳に残っている。
手紙だなんてまた古風な
彼女らしいじゃないか
僕らをよく知る同僚が笑う。
メールが主流になったのはもう何十年も前だ
文字を正確に美しく書ける人は少なくなった。
彼女の手紙を読んでいると
涼やかな声が心のなかで響いてくる。
僕は彼女の手紙を待った。

何百光年の旅をして
僕達は辺境の星に着いた。
僕は彼女の手紙を待った。
母船が何年かに一度地球を往復してくれる。
そのときに彼女からの手紙を携えてきてくれるはずだった。
だが彼女からの手紙は
いつまでたっても届かなかった。

心変わりは人の常だからね
僕がため息をついていると
同僚が慰めてくれる。
彼女が心変わりをしたなんて
思いたくなかったが
だが
手紙が来ないのは事実だった。

僕は彼女の手紙を待った。
そして月日は瞬く間に流れた。
手紙書くわ
そう言った彼女の声はもうだいぶ記憶から薄れてきてたけれど
それでも
僕は諦め切れなかった。
そしてある日
とうとう、ついに
彼女から手紙がきた。

「愛しいあなた」

書き出しを読んで。僕の手が震える。

「愛しいあなた
あなたが空の遠くにいってしまってから
もう、どれだけの時間がたったかしら。
忘れなさいとみんなが言う。
でも、私は忘れる事はできない。
あなたに会いたいという想いは
毎日毎日強くなるばかりです。」

忘れなさいって?
随分じゃないか
僕は思わず苦笑する。
僕らの気持ちは距離を超えている。
現にこうして、僕は彼女の手紙を読んでいるのだし。

「流れ星を見るたび
あなたを思い出します。
あの日、元気に旅立ったあなたが
もう二度と帰ってこないなんて
信じられない。
あの流れ星はあなたの命をのせて
どこかへ流れていくのかもしれないわね。」

・・・・
え?
僕は顔をあげて周囲を見回す。
さっき、手紙を渡してくれた同僚の姿は
どこにも見えなかった。
静かな宇宙ステーション
太陽電池で永久に回転し続ける。
僕は音の無い世界に立っていた。
ひとりで。
そして 鮮やかに記憶が蘇ってくる。


警告音のなか
船長の怒号が響く
絶望的な叫び
回避できません!
それが僕の最期の言葉だった。

流星群にぶつかって
僕らの船は沈んだ。
僕は
宇宙の闇のなかを漂う塵のひとつになった。

「愛しいあなた」

彼女の手紙の美しい文字が乱れる。

「もうすぐ
あなたのそばにいくわ。
毎日、ベッドで横になったまま空を見ています。
でも心配しないで。
苦しくはないから。
もう随分長い間
このときを待っていました。
あなたは私がわかるかしら。」


僕はずっと彼女の手紙を待っていた。
だが本当にこの手紙が読まれるのを待っていたのは
彼女だった。
ずっと長い間
彼女は待っていてくれたのだ。

「    」

僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
何度も何度も。
愛しいあなた、、、
きみの手紙が宇宙でさまよっている僕の
散り散りになった魂をよびあつめている。
磁石に吸い寄せられるように
幾筋もの流れ星が集まって
僕の心はひとつになってゆく。

愛しいきみ

僕は手紙を抱きしめる。
そして きみを 抱きしめる。
ようやく。
きみの笑顔を 抱きしめる。

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美ら海 

危ないなあ。
誰だよ、こんなところに穴掘ったの
足首を捻挫するところだった。
ちょうど大人がキツキツではまるぐらいの大きさ
覗いてみると、意外に深い。
子供だったら、底まで落ちちまうぞ
そう思ってると、たぶんこの近所の学校の保護者達だろう、
警察官と一緒にやってきた。
「危ないですよね。ここら辺いっぱいに穴が掘られてるんですよ!」
不快感めいっぱいにしておばちゃんが怒鳴る。
「結構深いしね。子供には気をつけるように言ってください」
警察官はメモをとりながら穴を覗き込んでいた。

ここら辺いっぱい、だった穴は
次の日には、辺り中いっぱいに掘られていた。
そしてどうやら穴はこの町内だけじゃなく
市内、いや県内、いやいや日本国中、
どっこい世界中、ありとあらゆるところに掘られているのだった。
「ただいま世界中に掘られている穴は、
把握されているだけで50億個。
現在も増え続けていますっ」
ニュースでは悲鳴に近い声でレポーターが叫んでいる。

「50億かあ。ひとり1個って感じじゃん?」
俺の隣で彼女があくびをしながら言った。
ひとり1個の穴?
「だとすると70億個近くまでいくのかなあ」
「じゃないの」
どうでもいいよ、と彼女は目を閉じた。
穴が増え続けてるのにどうでもいいことないだろ、
と言いたかったのに
俺もなぜか無性に眠くなってきていた。
このまま地球はどうなっちまうんだ?
不安なまま、だがどこか「どうでもいい」感じで
俺達は眠ってしまった。
そしておそらく、世界中の人々が眠っていた。
それまで嵐のように動いていた俺達の時間は
音もなく突然にそこで止まってしまった。


「こうして、この星の知的生命体は一斉捕獲されたのです」
青く澄んだそらに浮かぶガラスの宇宙船。
「人類が捕獲されて以来、地球の自然を破壊するものはなくなり
地球は急速に、美しさを取り戻しています。」
ガイドの声が響く。
さあ、そろそろ時間です
太陽の光と風をうけに、人類が穴から顔を出しますよ

俺達はもう何も考えない。
太陽の光を浴びるために
キツキツの穴からもそもそと上半身を出す。
俺の隣の穴には彼女が棲んでいる。はずだ。
そうして大地に人間の数だけ掘られた穴から
それぞれが顔を出して太陽の光を浴びる。
風の匂いを嗅ぐ。

そらにはゆっくりと雲のように
観察船がいくつもいくつも流れていった。

> story

刻印 

その子に会ったのは
まだ医者になって日が浅い頃だった。
母親に連れられて診察室に入ってきた女の子は
ニコニコと愛らしい笑みを浮かべていた。
「こんにちは」
椅子に腰掛けると弾けるような声で挨拶。
「元気良いね。今日はどうしたの?」
私の質問に、困ったように母親を見上げる。
見ると、同じように母親も困ったような顔をしていた。
「あの・・・」
「はい。どうしました?」
「見ていただきたいのは、指なんですが」
「指ですか」
女の子はもみじのような手を広げた。
思わず息を呑む。
女の子の両手の指先のすべてに
何かの印のような傷がついていた。

母親の話によると
傷がつき始めたのは、何時頃かはわからないが、だいぶ前かららしい。
気がついたときはすでに数本の指に傷がついていた。
長い間気がつかなかったのは
女の子が痛がらなかったからだと言う。
「痛みを感じない体質なのかもしれないですね」
「そうではないようなんですよ」
普通にどこかにぶつけたり転んだりすると痛いようだし
指先だけが無痛というワケではなく
「ドアにうっかり指をはさんだときはものすごく痛がって」
そのときは病院に行き、治療してもらったが
その傷はこんな風に残ってない、と不思議がる。
ということはこの傷は、痛みのない傷なのか。

よく見ていてあげてください。
母親にそう言うしかなかった。
「いつ、どんなときにどんな風に傷がつくのか
この子のことをよく見ていてあげてください。」
母親は深くお辞儀をして出て行った。
女の子は微笑みながらバイバイをしてくれた。



「先生。私、医者になろうと思うんです」
「医者に?」
目の前の少女は真直ぐに私を見つめている。
バイバイをしてくれた時と同じように
彼女の指先にはいくつもの傷。
指先だけではなく、手のひらにも手首にも腕にも
いくつもの傷がついている。
傷の大きさはさまざまだが
なぜか形は皆同じようで、紋章のようにも見える。
「医者になるって。君の体がもたないと思うけど」
私は率直に言う。
「・・・そうですよね。小さな傷ならなんとか大丈夫なんですが」
彼女は目を伏せてため息をついた。
「きみの傷の怖いところはね」
私は彼女の傷を診ながらつぶやく。また増えてる。
「きみのしたことが結果どうなるかわかんないところなんだよね」
「・・・・」
「きみのしたことがその場で即、反映されるわけじゃない。」
「・・・・はい」
「いつ、どうなるかわからない」


初めての診察以降も、女の子の傷は止まることなく増えていった。
母親は注意深く観察していたが
まったく何もしていないのに
突然、手に傷が湧きあがるようにできたり
傷ができたときの状況になにも共通するところがなかったりで
「わからないのです。どうして傷ができるのか」
診察におとずれるたびに困惑した様子で訴えた。
原因も対処法もわからないまま
同じ事が続いて数年たったある日
あわてて二人が駆け込んできた。
「先生!みてください!こんなに傷が・・・!!」
女の子の服をめくりあげて母親が叫ぶ。
「これは・・・」
白い背中に大きな傷がついている。
彼女が息をするたびに傷は盛り上がり、
ぱっくりと割れた肉から血が滲み出る。
さすがにこの傷は痛いらしく、彼女は顔をしかめて呻いた。
「どうしたんですか?」
「何も・・・何もしてはいないのです」
「何か変わったことは?なんでもいいです」
手早く処置をしていく。
「変わったこと・・。最近、学校でお年寄りとの交流をしていて」
「昨日、老人ホームに遊びに行きました」
そこで何かあったのかと言えば、傷に結びつく事はなく
「病気で寝ている方と楽しくお話をしてきただけなんですけど」
処置をしながら私は驚いて手を止める。
傷が自然にふさがってゆくではないか。
土のなかにもぐりこむ獣のように、傷は盛り上がった肉のなかに埋もれた。
見慣れた紋章が背中に残される。
「大丈夫。もう、痛くないわ」
彼女は冷たい汗をまだ浮かべたまま、青白い顔で微笑んだ。

翌日に彼女の母親から電話があった。
「老人ホームからお知らせがありました」
母親の声が少し震えている。
「娘が話してきたというお年寄りの方が
容態が急変してお亡くなりになったということなんですが・・」
「そうなんですか」
「はい。それが、亡くなられた時間が、
どうもあの子の背中に傷ができた時間と同じようなんです」
「・・・・・・」
「亡くなる直前、その方は何度も、娘と過ごしたことを思い出されて
とても幸せな時間だった、ありがとう、と言ってたらしくて」
もしかしたら、と
母親はゆっくりと話し出した。
ずっと引っかかっていたのですが。

「あの子は「ありがとう」と感謝されるたびに
傷がついてゆくのでしょうか。」


科学的な理論とか説明できる原因や根拠はない。
だが、長年ずっと不思議な傷を見てきて
それもあり得ることだと思った。
それからは、傷ができるたびに
何か善行があったのではないかと調べてみると
その場で感謝されてできる傷もあったり
時間がたって結果的に相手にとって幸せな出来事となり
感謝されることがあったりした。
大きな傷はそれだけ相手が深く幸せを感じているときのようだった。
他人を幸せにするたびに
自分は傷がついてゆく。
「自分の体を犠牲にして誰かを幸せにしてるということなのかしら」
彼女は新しい傷が増えるたびに
しみじみと傷を見つめながらつぶやくのだった。


「先生、お元気ですか?」
あの日、医者になろうと思うんです、と語った彼女は
願い通り、医者になって日々忙しくしている。
「ああ。変わりないよ。きみはどうだい?体は?」
「うーん。相変わらずです」
携帯電話から聞こえる声は
診察室に初めて来たときと同じ明るさのままだ。
医者になって彼女が傷だらけになるかと思ったのだが
予想は見事にはずれたようだった。
ときどき、大きな傷ができることはあるようだけど。
「こちらが良かれと思っていることも
相手にとっては幸せではないということもあるみたいです」
少し寂しげに言う。
「まあ、しかたないよ。
幸せかどうかは誰かが決めるのではなく
自分が決めることなんだから」
「そうですね・・。先生、私最近思うんですよ」

今まで自分の体を犠牲にしてきたと思ってたんですが
そうではなくて、この傷は
誰かを幸せにした証拠のしるしなんじゃないかって。
このしるしを見てると、自分が生きていて良かった、と
感じる事があるんです。
自分が誰かのために犠牲になっているのではなく
その誰かのために、私は生かされているのかもしれないですね。

そうだな、と
携帯電話を切って、私も思う。
そして、自分の気持ちを必死に抑える。
今はなんとか彼女を傷つけずにすんでいるようだ。
だがたぶん
自分が最期をむかえるときは
彼女に大きな傷を残す事になるだろう。
心から言うだろうから。

きみに会えてよかった。ありがとう、と。

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ペット禁止 

「犯人に告ぐ!」
チラシには赤い太文字で、そう書かれてあった。
「このマンションはペット禁止です。
あなたが飼っている猫が悪さをしています。
早急に何とかしてください」
・・・・猫か。確かに 最近、マンションの中を歩き回っている猫を見かける。
「あそこの家に違いないって、皆言ってるわ」
妻がチラシを見て、ため息をついた。
「あそこって?」
「最近越してきた、202号室よ」
「違いないって、証拠でもあるのか」
「あそこが越してきてから猫を見かけるし、それに・・・」
「それに?」
「隣の201号室の息子さんが、あやうく殺されかけたわ」

それは問題だ。
隣の家の息子さんが猫に首を噛まれてるところを
通りかかった管理人さんが助けてくれたらしい。
「301号室の嶋さんが犯人な訳ないしな」
「もちろんよ。嶋さんはかえって迷惑だって怒ってる」
「だなあ」
「こんなチラシが出ちゃったんだから、集会開くしかないわよね」
妻の言葉どおり、次の日曜日には集会室で、
マンション自治会の緊急総会が開かれることになった。

ペットを飼っているという202号室の住人は
憮然とした顔つきで座っている。
最初、欠席すると言っていたのだが
チラシだけではすまなくなりますよ、という自治会長の言葉に、
しぶしぶ出席することになったらしい。
立派なたてがみのような髪をふりながら
例のチラシを手にし、自治会長が切り出した。
「このチラシはマンション住人全員に配布されていました。
ご存知のとおりここはペット禁止になっています。
ペットを飼っていらっしゃる方はいないというのが前提なんですが・・」
集会室にいた者全員が、202号室の住人を見つめた。
視線に歯向かうように顔をあげて、住人は言った。
「私たちはたしかに猫を飼ってます。
で、でも、ペットを飼ってる人は他にもいますよ」

「・・・ほう?どんなペットでしょうか」
静かに、しかし冷たい声できいたのは
301号室の嶋さんだ。
「嶋さん、あなたの部屋から時折、猫の声がきこえますし
503号室の黒淵さんのベランダから、
犬の尻尾のようなものが垂れ下がってるの見た事ありますよ!」
う、家か?
妻の顔を見ると、見つかったか、というように ペロっと舌を出した。
「申し訳ないが」、と、自治会長がうなるように言った。
「嶋さんも黒淵さんも、ペットは飼ってないんですよ」
「ウソだ!確かに聞こえたし見ましたから!」
「それはそうだと思います。だが・・・」
「ちょっと待ってください」
自治会長の言葉をさえぎったのは、201号室の根津さんだった。
「よそはどうであれ、私の息子はあなたのとこの猫に
殺されかけたんですからね!その責任はどうしてくれるんですか!」
「む、息子さん・・?」
ざわざわ、と集会室が揺れた。

「息子さんって・・・。うちの猫はねずみを獲っただけですよ」
ガタン!
突然、嶋さんが立ち上がった。
「許せん!私だって、私だって、我慢してるのに・・・」
「嶋さん、まあまあ、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか?
ここの住人は皆、節度をもって、ルールを守って生活してるんですよ。
それなのに、こいつらは・・・・」
嶋さんの顔つきがみるみる変わってゆく。
耳がするどく尖り、目がキラキラと光ったかと思うと
三日月のように細い瞳孔が浮かび上がった。
202号室の住人が目を丸くして驚いているうちに
集会室の人々は次々に獣へと変身していく。

「うちの息子に今度手を出したら承知しないからね!」
妻の頭の上で、ねずみに変わった根津さんがキイキイ叫んだ。
「そうそう。悪さする猫は私が踏み潰してやるわ」
妻はでっぷりとしたセントバーナードになり、精一杯すごんでいる。
「さっさと出ておいき、ルールを守れない者はここでは生活できないんだよ」
凍りつくような甘い声で嶋さんが言い放った。
「あ・・・あ・・・自治会長さん、こ、これは・・・・」
震えながら立ち上がる202号室の住人に
ライオンに変身した自治会長がひとこと、
「出て行け!!」 と、吼えた。

「自治会長の咆哮には、マジびびるね」
「あれやられると、ご近所に説明するのが面倒なんだけどね」
獣達は人間に戻り、にこやかに話しながら集会室を出ていく。
「出て行きますかねえ、202号室」
あたふたと走り去った住人を思い出して言うと、
自治会長が鼻を鳴らして答えた。
「出て行かなかったら、・・・そうだなあ。
仲間になってもらうしかないだろうな。
猿なんか、いいかもな?」
犬猿の仲にしたいんですか、
自分の言葉に、嶋さんも笑った。


うちのマンションはペット禁止。
ペットは、絶対に飼えないマンション、なのである。
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