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地獄 

俺は自殺したはずだった。だが
目を覚ますと病院でも墓場でもなく
最期に倒れたその場所で
変わらずに寝転んでいた。

俺の上を通行人たちが平気でまたいで行く。
誰も道の真ん中で倒れているヤツに気がつかないのか。
突然、視界に女のスカートの内側が飛びこんできた。
次の瞬間
思い切り、鼻をヒールで踏んづけられた。
「いてえっ!」
叫んで飛び起きてみたが
?・・・・いや、痛みはない。

信号が切り替わり、スクランブル交差点に車が流れ込んでくる。
半身起こした俺に、次々に車が突っ込んできた。
「見えないのかよ、人がいるのに!」
逃げようとしたが間に合わなかった。
俺の体のなかを空気が通り過ぎてゆく。
何台も何台も車たちは俺に突っ込み
俺は幾多の風だけを感じた。
痛みはなかった。

再び信号が切り替わり
人々が渡って来る。
だが誰も俺を見ていない。
いろんな体温、匂い、そして切れ切れの言葉が
俺の体をすりぬけていった。
「おい・・」
話しかけようと手を伸ばすと
その手はスっと水を掴み取るように
相手の体を通っていった。

「おい」
誰かに呼びかけられて振り返る。
「・・俺が見えるのか?」
「あたりまえだ」
後ろに立っているのは年配の男だ。
そして彼の体の中を
通行人たちがシュルシュルと通り抜けていく。
「おまえと同じものだ」
「・・・なんなんだ、これは?」
「おまえ、ずいぶんと悪事を積んだようだな」
男がニヤリと笑った。
その瞬間、思い出した。
俺が生きてる頃に起こした数々の出来事。
そして最後に俺は自殺したのだった。

「天国も地獄もない」
男は静かに話し続けた。
「ただ、おまえには安らぎがないだけだ」
「死んでも終わりがないということか?」
「そういうこと」
男はタバコとライターを差し出した。
火をつけようとするのだが
何度やっても、ライターは反応しない。
「ただ、タバコをクチにくわえる。それと同じだ」
「吸いたい」
「だが、吸えない」
「それが罰なのか?」
「腹は減っていないか?」
「・・そういわれれば、減っている」
「望めばなんでも食べられるぞ」
「そうなのか?」
「俺たちは見えないし、通り抜けができる」
「なるほど。盗むのも簡単だ」
「だが」
「・・・」
「そのタバコと同じだ」
「食いたいけど、食えない?」
男はうなずいた。
「食えないのさ。何もかも手に入る、が、何も手に入らない」
俺はブルっと震えた。
寒い。
「寒いだろう?」
「ああ・・・」
「ずっとそのままだ」
「このまま?」
「腹が減って、寒いままだ」

男は空を見上げる。
いつのまにか夜になっていた。
「このままって、、いつまで?」
「それはわからない」
「いつか終わりがくるのか?」
「くるものもある」
「こないものも?」
「もちろんある」
「どうしたら・・・」
「それは誰にもわからんのさ」
悪いことをしたら地獄で責め苦にあうのだよ
子供のころ言われたが
これが地獄なのだろうか?
「悪いヤツが地獄で責め苦にあったところでしかたないだろう」
「・・・」
「地獄の責め苦がこわくて悪いことができないのは善人さ」

「偽善者だよ」
俺は吐き捨てるように言った。
「偽善者でも、善行はしている」
男はじっと俺を見た。
「偽善という言葉にだまされるな」
「・・・」
「そんな言葉は何もできないヤツの負け惜しみにすぎない」
「えらそうだな、あんた」
「おまえの罪はな」
肩をすくめて男は言った。
「自分が善人じゃないとあきらめていることだ」

本当の善人なんかいやしないのさ
男はそう言って、消えた。
あれが男の終わりだったのかもしれない。
あれから俺は終わりのないまま
何百年と生きている。
いや、生きているというのは変な言い方だな。
ただ在る、ということか。
何もできない。ただここにいて
書物を読むようにテレビを観る様に
世の中のありとあらゆる出来事を
じっと見ているだけにすぎない。

俺に似たヤツをみつけると
ずっとくっついて「観察」を続ける。
話しかけたいときもある。
だが、それは叶わない。
最初は俺に似ているヤツが
なぜか俺とはまったく違う最期を遂げる。
なぜだ?
何が違うんだ?

そして遂に終わりがきた。
その男はやはり俺に似ていて
出来る限りの悪事をはたらいた後
自分の命を絶とうとしていた。
俺はその男が自殺するのを見つめていた。
止めようにも止めることなどできるわけもなく。
今までいろいろな世界の命の営みを見てきた俺。
生まれるところから終わるところまで
永遠ともいえる繰り返しを
ただじっと見てきた俺。
男が倒れこんだとき
涙が初めてこぼれた。

「・・・俺が見えるのか?」
「もちろんさ」
「俺は死んだはずなんだが」
「死んだよ。だが、終わってはいない」
「それは罰なのか?」
「罰かもしれない。終わらせたかったんだからな」
「・・・」
「思うんだが」
「なにを?」
「おまえも俺も修行が足りなかった」
「修行?」
「見つめることさ。ただじっと、ひたすらに」
「馬鹿馬鹿しい」
「おまえは自分を見つめたことがあるか?」
「えらそうだな、あんた」
「おまえの罪はな」
肩をすくめて俺は言った。
「自分を見ていないことだ」

俺は消えた。
消えるまで長い長い時間だった。
その時間は俺が奪った命が生きて
生み出した次の命がずっと続いているはずだった時間。
その時間、ただ見つめるだけが
俺への罰だったのかもしれない。



「ようこそ、地獄へ」
目を覚ました俺に、片目をつぶって
最初に出会った年配の男が言った。
「じ、地獄・・?」
「悪いことしたら、地獄で責め苦にあうのは知ってたよね」
「それは子供の頃の」
「本当のお話さ」
「天国も地獄もないってあんたが」
「ようやく空きができたんだ」
「・・・」
「それまで待機してただけ」
「罰が終わったわけじゃ」
「ないない。そんなに甘くない」
「そんな・・」
「じゃ、何度か焼き尽くされてみようか」

一枚の板が渡された崖の下に
灼熱の火の山が広がっていた。
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> story

気まぐれな王様 


日曜日、王様は隣の国のお姫様と結婚式をあげた。
それまでお互いの姿を直接見たことのないふたり。
幼いころから、王様と結婚してお妃になるのだよ、と
言われてきたお姫様には、なんの驚きも感激もなく
王様は、眠っているような、静かな男の人に見えた。
民衆の前では、決して大きな声で話そうとはせず
側近の家臣に耳打ちをする。
「王様のご命令である!」
そうやって大声を張り上げるのは、家臣の役目であった。


月曜日、目をさますと王様がやさしく微笑んで
「おはよう」と、お妃にささやいた。
前の日の王様となんだか違う。
王様は、とびきり美味しいお菓子を注文して作らせ
お妃とゆっくりとお茶を飲み、広大な庭を散歩した。
のんびりとした時間。穏やかな王様。
「この方となら、ずっとおそばにいても良いかもしれない」
お妃はこころのなかで呟いた。


火曜日、王様は狩りを楽しんだ。
馬に乗った王様は始終先頭を走り
家臣の誰よりも勇猛で残酷だった。
顔を紅潮させて叫ぶ王様を、お妃は遠くから見つめていた。

水曜日、王様は部屋にこもって
模型づくりに没頭していた。
「王様が何か作っている時は、邪魔してはならないのですよ」
急ぎの伝令も、しかたない、というように諦めて言った。


木曜日、王様は本を読んでいた。
話しかけても、答えはない。
うなずくか頭をふるかのどちらかで
ものすごい勢いで頁をめくりながら読んでいる。
「この書庫の半分の蔵書は、もう読み終わっているはずです」
書庫の番をしている学者が感心したように話す。
天井までの高さの壁一面にビッシリと収められている本。
その数に、お妃は圧倒されながら、クチをポカンとあけて見上げた。


金曜日、王様はおしゃれに余念がない。
「お妃もするといい。気持ちいいよ」
体全身をマッサージされて、いい香りの油を擦り込む。
そして、城下一の仕立て屋をよんで
新しい服のデザインと生地を、長い時間かけて選ぶのだ。
外見に気を使うわりに、髪型や髯や、爪はそのままなのが
お妃には、ちょっと不思議に思える。


土曜日、王様は酒を飲む。
かなり強いとみえて、朝から飲んでいる。
興が乗れば、楽団を用意してダンスパーティーもひらく。
飲んで歌って踊って、夜通し騒ぐ。
酔いつぶれる客を尻目に
王様は最後まで、飲んでいる。

そして日曜日からまた同じような1週間が始まる。
お酒を飲んで騒ぐせいか
日曜日の王様は、いつも眠そうだ。
結婚式の前の日も、ああやって飲んでいたんだわ、
お妃は少し呆れている。
火曜日の狩りが、格闘技に変わったり
水曜日の模型づくりが、時計の組み立てに変わったり
少しの変化のほかは
1週間、だいたい王様のなさることに
変わりはなかった。


自分の父親も気まぐれな王だったけど
この国の王様もかなりのものだわ
お妃はため息をつく。
その日によって、王様からの愛情を感じたり
まったく興味がなさそうだったり
友達のような距離だったり
嫌われているのを感じたり
王様のこころはとりとめない。
「将来、生まれてくる子供は
月曜日の王様に似た男の子でありますように」
お妃は、そっと、祈るのだった。



この国の王様には、6人の影武者がいた。


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ビー玉、あまいかしょっぱいか 

どうして夢ばっかり追いかけてる男が好きなんだろうね
ママは最後の最後でいつも泣きながらそうつぶやくんだ。
僕は泣いているママの頭を何度も撫でて
泣かないで、ママは強いでしょ
って、転んだときいつもママが僕に言ってくれるように言う。

ママはビー玉が好きで
僕と一緒におもちゃ屋に行くと、必ず小さなネットに詰まったガラスの玉を買う。
陽の光に透かして見たりテーブルの上に転がしてみたり
ビー玉を手にしている時のママの目には
キラキラと輝くビー玉がたくさん映っている。
「ママが生まれた町は港町でね」
うす緑色したビー玉を白く細い指でつまみながらママはささやく。
「こんなビー玉みたいなガラスの浮き玉が、いっぱい吊るしてあるの」
いつかそこに連れて行こうね、ママはそう言うんだけど
僕は港町にはまだ一度も行ったことはなかった。

僕は大人のことは詳しくはわからないけど
ときどきおばあちゃんがママに小言を言ってるのを聞いてしまうことがある。
「夢を追っかけるって言えば聞こえはいいけどね」
「家庭をもつことに責任をもてないってことなんじゃないのかね」
「子供や妻は、夢には邪魔ってことになるんじゃないのかい」
ママは黙っている。
そんなこと、わかってるわよ
帰り道、ママが独り言で言うのを、僕は聞いてしまったりする。

ママは性懲りも無くまた恋をしているみたいだった。
「今度はうまくいきそうなのよ」
嬉しそうに話すママ。

もう何回もそんなママを見てきたんだけど・・
「でね、今度の日曜日に遊園地で会うことになったの」



その日はとてもいい天気だった。
ママと僕は遊園地のベンチに並んで座って、人を待っていた。
ママはソフトクリームを買ってくれた。

風船を買ってくれた。
また、ソフトを買った。
お日様がどんどん真上に昇っていった。
震える指で、ママはバッグからビー玉を取り出した。
僕はベンチにビー玉を転がした。
太陽の光を受けて、一つ一つがまぶしく輝く。
ママが今まで流した涙の粒がビー玉になったのか
かなわなかった幾つもの夢がビー玉になったのか
ペンキの剥がれかかったベンチの上で
ビー玉は好き勝手に転がっていった。
いつの間にかママは電話をしに行ってしまって
僕はひとりでベンチに座っていた。


「綺麗だな」
頭の上で声がして、僕は空を見上げた。
「ビー玉なんて、見るの、久しぶりだなー」
細く長い足をポキポキと折り曲げるようにして
僕の隣に腰掛け、その男の人は人懐っこそうに笑った。
「おじさん、誰?」
「あー・・・魔法使いさ」
僕の冷たい反応に、苦笑いしながら
「ほら」 と、細くて綺麗な指から、100円玉を出してみせた。
「魔法使いじゃなくって、マジシャンでしょ?」
「うん、そうとも言う」
手品師は、いい天気だな、と額に手をかざして目を細めた。
「このビー玉、・・・食べられるんだぜ、知ってたか?」
「え?」
「ほら」
手品師は、ビー玉をひとつつまんで、クチに入れる素振りをした。
クチのなかで飴をなめているように舌先で頬をふくらませている。
「食べてみなよ」
「え」
「ほら、クチをあけてごらん」
僕もビー玉を食べるフリをしてみたくなって
言われた通りにクチをあけてみた。
手品師がビー玉をつまんで、僕のクチにいれるフリをして・・

え?
本当に、舌先に硬いものがあたった。
「ゆっくりなめるんだぞ。あわてて、呑み込むな」
手品師は、さっきクチにしたビー玉を、ガリガリと噛み砕いている。
僕は大きく目を開いたまま、ビー玉を舌先で転がした。
甘い。
本当の飴だ。

本当の魔法使いだ。

休憩おわりっ、向こうでショーやってるから見に来いよ
手品師はそう言って、片目をつぶって立ち上がり、行ってしまった。
やがてママがショボショボと戻ってきて
「だめ。電話に出ないの。逃げちゃったみたい・・・」
いつものように泣こうとしたので、僕は急いで
「ねえ、ママ。あっちで面白いことやってるようだよ、見に行こうよ!」
そう言って、散らばってるビー玉を集めてママに手渡した。



車の窓から海風が吹き込んでくる。

ママは助手席で髪の毛を押さえながら歓声をあげた。
ママは夢を追いかける男が好きなんだ。
無名だった手品師と、また簡単に恋におちて
でも、今度の結末は今までとは違ったみたいだよ。
ママよりも僕のほうが
人を見る目はあるのかもしれないね。
ねえ、ママ。


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