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脱獄は夜 

「お先に」
目で合図する俺に、アイツは軽くうなずいた。
後ろで重い扉が閉まる。
何年ぶりかの塀の外。
俺ははるかに高い塀を見上げる。
その上の青い空を見上げる。
自由だ。
このまま、塀の中のことは忘れてしまっても構わないじゃないか
そんな気持ちにさえなる。
だが、俺たちは約束していた。
アイツの脱獄を、手助けしてやらねば。

お互い、銀行強盗をやって服役していた縁だった。
俺の何倍もアイツの刑は長い。
「お前と組んでたら、人殺しせずにうまくやってたかもしれないな」
「アンタと組んでたら、もっと大きな仕事ができたかもしれない」
俺たちは、顔を合わせるたびに、そんな話をしていた。
俺の刑期が残り半年になった頃から
どちらからともなく、「脱獄」の話が出るようになっていた。

問題は、俺たちがぶちこまれた刑務所が
「脱獄不可能」といわれる刑務所だったことだ。
今まで、誰一人としてその刑務所から脱獄したモノはいない。
「不思議だぜ」
アイツはいつも同じことを言った。
「この刑務所よりも、警備が厳重な刑務所はたくさんある」
「確かにナ」
「いや、むしろここは警備が手薄だといってもいい」
「うむ」
「このぐらいの警備なら、脱獄するのは、たやすいはずだぜ」
「ああ。なのに・・」
「誰も、逃げ出せたものはいない」
どう考えても、脱獄不可能といわれる理由がわからなかった。

不思議といえば、もうひとつ。
独房に長い間、ひとりの男がつながれているのだが
どんな奴で、なんの罪で服役してるのか
なぜ、長い間、ずっと独房にいるのか
詳しいことを知っているものは、誰もいなかった。
時折、看守にきいてみるのだが
皆、首を横に振るばかり。

一度、俺はその男に食事を持っていったコトがある。
男の横顔をチラリと見たが、青白いやせた感じで
首に、太い鉄の首輪をしていた。
その首輪には、鎖がついているようだった。
男は、鎖につながれて、独房に閉じ込められていたのだ。
「脱獄不可能なのは、その男だけなんじゃねえのか?」
アイツが笑いながら言った。
そうかもしれなかった。


脱獄の手筈は、何度も念入りに打ち合わせていた。
差し入れに、脱獄に必要なものをしのばせてアイツに渡すことも
簡単にうまくいった。あまりにもうまくコトが運びすぎる。
本当に、脱獄不可能な刑務所なのか?
それはただの噂にすぎなかったのか。
俺の疑問とは関係なく、時間はすぎてゆき
何回目かのアイツとの面会で
ついに、決行の日が決まった。
「今夜、たのむ」
アイツは俺に合図をおくった。

わかった、俺は軽くうなずいた。
本当に脱獄不可能な刑務所なのかどうか
そいつは今夜、ハッキリとわかるわけだ。
俺は塀の外に出て、晴れて澄み渡る青空を見上げた。
今夜は、月明かりだけで十分かもしれない。

塀の上の鉄条網が切れ掛かっている箇所の近くに
俺は静かに車を止めた。
アイツがうまく牢獄を抜けて、ここから出てきたら
車で逃げることになっていた。
時間だ。

「た、助けてくれ!!!」
アイツの叫ぶ声が近づいてくる。
走ってくるアイツの後ろから
何かが追いかけてきている。
犬の足音? だが、この刑務所に番犬はいないはずだ。
「引っ張りあげてくれ!早く!早く!!」
俺は車の屋根に上がり、塀を覗き込んだ。
アイツが塀の途中まで上がり、手を伸ばしている。
その後ろに追いついてきたもの
俺は、目を疑った。
それは、独房のあの男だった!

男はアイツの喉に噛み付いた。
大きな牙が、アイツの喉にのめりこみ
アイツの目からたちまちのうちに
光が消えていった。
息絶えたアイツからクチをはなし、
グルルル、低く唸りながら男は俺を見上げた。
返り血を浴びたその首に
太い鉄の首輪がはめられている。
俺は息を呑んだまま固まっていた。

はるか後ろから、看守たちが走ってきていた。
その足音に、我に返った。
車にとび乗り、急発進させる。
「あの男が・・・あの男が脱獄不可能な『ワケ』だったんだ」

手薄な警備。
厳重な独房。

だが、夜は。

夜の男を見たものはいない。
夜、あの男は放たれるのだ。
そして、脱獄者には
現世の自由ではなく、違う切符を渡す。

俺は走った。
狼の遠吠えをふり切るように。




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