> スポンサー広告

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • --.--.-- --:-- 
  • コメント(-) |
  • トラックバック(-) |
  • URL |

> story

短劇  

何をしたくもない。
食べて寝るだけで一日が終わる。
母親は黙って食事を置いて、汚れ物を片付ける。
自分がこの世からいなくなっても
世間も歴史も何ひとつ変わらないだろうと思う。

悪魔 「じゃあ、その命をよこせ」
わたし「この命がなぜほしい?」
悪魔 「命がほしいのではない」
わたし「では何が?」
悪魔 「お前が生きていくことで何かが生まれてしまうことがイヤなのだ」
わたし「今まで、何も生まれてこなかった」
悪魔 「そうだ」
わたし「これからだって、そうじゃないか」
悪魔 「それはわからない」
わたし「わからないって?悪魔のくせに」
悪魔 「運命は結果が決まっているだけだ」
わたし「結果?」
悪魔 「その結果にどんな過程があるかは曖昧だ」
わたし「おおまかな結果だけが決まっているってことか?」
悪魔 「そうだ。おまえが生まれ、死ぬということだけがハッキリ決まっている」
わたし「どう生まれ、どう生きて、なぜ死ぬかはどうでもいい、と?」
悪魔 「そうだ。歴史というものはひとつの見方でしかない」
わたし「結果だけがハッキリとしているのが歴史だということか」
悪魔 「どうしてそういう結果になったか、それはどうだっていいことなのだ」
わたし「目に見えぬものの積み重ねも、偶然であれ必然であれ、いずれわかっている結果のプロセスのひとつにすぎないと」
悪魔 「運命ではない」
わたし「とすると、今、この命をおまえに渡すと、どうなる?」
悪魔 「どうもならんさ」
わたし「そうだよな。何も生まれてはいない」
悪魔 「お前が今いなくなっても、事実は何も変わらないのだ」
わたし「生きていないと同じだものな」
悪魔 「そうだ。生きていないのと同じだ」
わたし「・・・わかった。おまえにこの命を」
悪魔 「よこせ」

突然に明るい光が満ちる。
悪魔 「またお前か!邪魔をするな!今度はなんだというのだ!」
光  「悪さはおやめ、この人の命は奪えない」
悪魔 「なぜだ。こいつは生きていないようなものじゃないか」
光  「お前は言ったではないか。運命は結果だと」
悪魔 「こいつは結果として生まれてこなかったってことだ」
光  「私はこの人の母。母がこの世に生み出したものという結果はどうなるのだ」
悪魔 「・・・・・」
光  「歴史は変えられない。過程がどうであろうと、結果は変えられないのだから」
悪魔 「そうだな。生きていないようなものとはいえ、こいつは生み出されたもの」
光  「人として生まれでたものは、人として生きることになる」
悪魔 「それが結果であり、運命だ」

悪魔と光は消える。
ぼんやりと考える。

わたし「人として生まれでたものは、人として生きる」

自分が何も生み出せなくても、自分が生きることで、誰かの存在意義になるのか。
母親がドアをノックする。
いつもは返事だけする自分が、ドアを開けたので
両手にお盆を持った母親が、目を丸くした。


スポンサーサイト

> story

水天宮 



遠くから歌声と音楽が聞こえてくる。
甲高いオンナ系の歓声、酒瓶が割れる音。
シャラシャラと硬質なモノがすれるような音が近づいてきて
ふうわり、磯の香りが頬をかすめた。

俺はパチ、と目を開ける。
目の前にフワフワと揺れ動く女の平ったい顔があった。
「・・・いま何時だ?」
目覚めてみると部屋のなかは肌寒い感じで
俺は体にまとっていた白い布をもう一度、巻きなおした。
「何時だなんて」
ポコポコと泡のような声で、女は笑った。
「ここには時間など、ありません」
窓らしきものから、薄く青い光が差し込んではいるのだが
ちっとも暖かい感じはしない。
日当たりが悪いせいか、部屋のなかはどことなく湿っぽく
壁を指で触れると、じんわり、水滴が浮かんでくる。


「もう、どのくらい、ここに?」
「忘れてしまいなさいな」
女は俺に液体の入った杯を手渡して、ニッコリと微笑んだ。
この液体は不思議な味がする。決して美味いものではない、なのに
なぜか飲みたくなってしまう。体が欲している、という風なのだ。
俺は杯にクチをつけながら、妙に首のあたりがこわばっているのに気がついた。
「寝てばかりいるからかな」
「どうしまして?」
「なんだか、ここら辺が・・おかしな感じだ」
「あら」
女はぬるりと俺に流し目をしてベッドのふちに腰掛けてきた。
「寝てばかりでもありませんわ」
「・・・」
「ちゃんとワタクシを抱いてくれていますでしょう?」
杯を空けると同時に、女が波のように倒れこんできた。

時間の感覚も地に足をつける感覚も
ずいぶん前に失ってしまったような気がする。
毎日毎日、女たちと戯れ
俺は一歩も部屋から出ずにただただ液体を飲み続けた。
「なあ、俺はいったい、いつからここにいるんだ」
「いつからですって?」
「どうやって、ここに来たんだ?」
「そんなこと、、忘れたほうがいいわ」
「・・・そうか、・・・・もういいよ」
その日、初めて女からの杯を拒んでみた。
一瞬、表情を曇らせた女は、だがすぐに笑って言った。
「かまいませぬ。もう十分ですもの」
「十分・・?」
「ええ。そこに、ホラ」
水のように揺れる鏡を、女は差し出した。



鏡をのぞいた途端、すべてを思い出していた!
俺はたしかあの日、大亀にのってここにきて

・・・・・・

鏡のなかに映った俺の頬の横には
大きな赤黒いエラが脈を打っている。

驚きのあまり声の出ない俺を見て、女はスルリと衣を脱ぎ捨て
銀白色に輝く尾びれを巻きつけてきた。

「これで、いつまでも一緒ね・・・ウラシマさん」





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。